エピローグ

「とりあえず、あれですね」
 泣き止んだ小寺の手を繋いだまま、駅に歩き始めて橋本は言った。
「今日、加藤さんと田中さんに『付き合ってないです』って言っちゃいましたから、今度こそ自分で言わないと駄目ですね」
 もう、いい加減二人とも聞いてはくれないだろう。今度は、こっちから伝えにいかねば。正に小寺が加藤と田中の交際を知ることが出来なかった状況に似て・・・いなくもない。二人ともそんなことを思いながら、それを伝える時のことを考えると、まだまだ照れてしまってお互いの顔を見れないままゆっくりと駅に向かって進んでいく。
 しかし、そこにも二人の間には似て非なる思いがあったようで。
「う・・・うん・・・」
 田中さんにはなぁー。言い易いんだけどなぁー。と、ぶつぶつ呟いている小寺の隣で、橋本は本気で身の危険をちょっと感じる。
「加藤さんに言ったら、泣くか怒るかもしれないですね」
 喜ぶことは喜ぶだろうけど。そう思いながら、小寺に伝えるためにではなく呟いた橋本の言葉に、小寺が橋本を見上げて言う。
「え? 加藤さんが? 何で?」
「・・・」
 きょとんとした表情で聞き返した小寺の顔を見て、本当に加藤さんがどれだけ可愛がっているか、分かってないんだな。この人。と、思う。それこそ、加藤は娘を嫁に出すような気持ちになるだろう。と、小寺以外の営業部員なら思うだろうに。
「? 何で? 何でー?」
「・・・とりあえず、まずは田中さん経由で伝えたほうが良いと思いますよ」
「何でー? どうしてー?」
「・・・」
 加藤さん。報われない人だな。本気でそう思う。ちょっと可哀想になってきた。
 小寺の「何でー?」は治まりそうもない。さて、どう説明したものかと思いながら、橋本は彼女の手を引いた。


戻る 目次 
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。